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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)833号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人合路義樹の上告理由第一について。

本件土地とその上にある本件建物は、もと山本正雄の所有であつたが、昭和二六年一二月二〇日頃山本から庄司惣五郎に譲渡された。しかし建物については、その登記未了のうちに、山本の債権者たる松本リサヨから強制競売の申立があり、昭和二七年五月九日強制競売手続開始決定が為された結果、昭和二八年六月一〇日の競落許可決定に基づいて上告人においてその所有権を取得した。一方、土地については、昭和二七年一〇月二二日に至つて山本から庄司に所有権移転登記が為され、次いで昭和三〇年二月二六日庄司から被上告人に譲渡されて被上告人においてその所有権を取得した。以上は、原審が確定した本件の事実関係である。

右のような事実関係の下において、上告人は、前記強制競売手続開始決定当時における登記欠缺を理由に、庄司においては本件土地及び建物の所有権取得をもつて上告人に対抗できないとし、また、同一所有者に属する土地とその上の建物のうち建物だけが強制競売に付されて競落人に移転する場合には、地上権が設定されたものとしなければならないとし、よつて本件の場合は、山本所有の本件土地及び建物のうちの建物だけの競落人である上告人のために地上権が成立しているものとしなければならないと主張するのである。従つて、上告人の右主張は、本件当時の実定法上の解釈としては、民法三八八条の法定地上権の規定の類推乃至拡張をいうものと解する外ない。

しかし、何ら抵当権設定のない同一所有者に属する土地及びその上の建物が強制競売の結果所有者を異にするに至つた場合につき、大審院判例は法定地上権の成立を認めていないのであり(昭和八年(オ)一五八四号同九年二月二八日判決、昭和一〇年(オ)二六四四号、同一一年四月二二日判決)、民法三八八条が抵当権設定があつたときは競売の場合につき地上権を設定したものと看做す旨の特別規定であること及び抵当権設定のない場合の建物競落人は事前或いは事後の交渉により借地権等の敷地使用権を取得する途がないではないこと等によつてみれば、いま茲に右大審院判例の趣旨を変更し、抵当権設定のない場合についてまで右三八八条の類推乃至拡張により地上権の設定があつたものと看做すというのは相当ではない。のみならず、当該不動産につき差押乃至配当加入をしたものでない単なる一般債権者にすぎない者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有するところの民法一七七条にいう第三者に当らないことは、これまた大審院判例の存するところであつて(明治四一年(オ)二六九号、同四一年一二月一五日連合部判決)、この点についても従来の判例を変更する必要を認めないから、前記の事実関係によつて明らかなように本件建物のみを差押えた松本リサヨ、ひいて右差押に基づく競売手続における競落人たる上告人は、建物については庄司の登記欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当るけれども、本件土地については単なる一般債権者の域を出でず、右の第三者に当らないというべきである。従つて本件の場合は、「土地及びその上の建物が同一所有者に属すること」という民法三八八条による法定地上権成立の要件を欠く場合といわなければならない。

以上によれば、本件の場合につき法定地上権成立をいう上告人の主張は、主張自体失当というべきものであつて、上告人の右主張を排斥した終局の結論において原判決は正当に帰する。所論は右と異る見解を主張するものであり、所掲の判例は本件の場合論旨を支持するに足らない。よつて論旨はすべて採用できない。

同第二について。

所論主張について原審は判断を示している。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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